MUSIC

2016.09.02
【続☆NICO Touches the Wallsライブ・マジック】弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その4

2015年末に面白いアルバムが出た。20年前のスピッツの傑作アルバム『ハチミツ』を、オリジナルの曲順どおりに若いバンドがカバーするという画期的なトリビュート盤『JUST LIKE HONEY-『ハチミツ』20th Anniversary Tribute-』だった。そこでNICO Touches the Wallsは、3曲目の「歩き出せ、クローバー」を担当。ASIAN KUNG-FU GENERATIONや10-FEETなどのバンドと並んで優れたカバーを披露した。
コーラスワークやギターワークなど、よく練られたアレンジは群を抜いていた。何より、スピッツに対するリスペクトがそこここににじんでいて、聴きごたえがあった。この自信にあふれるカバーは、きっと“ライブの充実”から来ているのではないかと僕は思った。

2014年8月、NICO Touches the Wallsの2度目の武道館は大成功を収めた。それはある意味、2010年に初めて行なった武道館のリベンジでもあった。1度目はバンドとしては納得のいかないライブだったから、彼らは周到な準備をして臨み、オープニングから軽々とリベンジを果たした。

_MG_9519

マジックが起こったのは、中盤のアコースティック・アレンジをほどこした「バイシクル」だった。モノクロの大スクリーンにメンバーが映し出され、歌詞が♪全速力で闇をくぐって 光射すトンネルの向こうへ♪という歌詞に差しかかったとき、光村の歌の表現レベルが突然アップしたのだ。触発されて、ギターの古村大介も、ベースの坂倉心悟も、ドラムの対馬祥太郎も、これまで以上に歌心のある演奏に変わっていく。珍しく目を閉じて弾く坂倉。思い入れたっぷりにアコギを掻き鳴らす古村。対馬は全体を見渡しながら、しっかりリズムを刻み込む。その瞬間、バンドのスケールがみるみるアップして、まさに“武道館サイズ”になったのだった。

このライブについて、後にメンバーはこう語っている。

_Q5A3648

「『バイシクル』は歌の流れに沿ってギターを弾いているだけで、考える必要がないくらい自然に強弱が付きました。こういうイメージでやりたいと思っていた以上にできて、すごくよかったです」(古村)。

_U2A2915

「『手をたたけ』と、最新モードの『天地ガエシ』を続けてやったんですけど、この2曲を今の自分たちが新旧関係なしに最も美しい形でできたら、それこそ純粋なバンド愛なんじゃないかって思ってた。“今ならできる”って思ってたし、できたのが嬉しかったです」(対馬)。

_P5A8765

「武道館の準備は大変でしたけど、その分、ちょっとしたトラブルは平気になった。だから武道館のステージに上がったときにはもう“早く始めたいな”って気持ちで。それは自分の中ですごく珍しいことなんです。ステージに上がるのが楽しみって感覚は、本当にこの1年以内の話です」(坂倉)

_L8A3299

「アコースティックの『バイシクル』は賭けでしたね。だって直前のツアーでは大騒ぎのライブをやっている。でもここから先、俺たちがやりたいことを9000人が集まってる前で表現できないと本物じゃないなと思ってました。だから自分のリベンジは果たせたなって思えた。そうしたらもう、あとは楽しむだけ。自分もお客さんになって楽しんじゃいました」(光村)

_P5A8938a

対馬の“純粋なバンド愛”という言葉が、このリベンジ・ライブの成功のすべてを物語っている。同時に、このライブ以上のマジックが翌年に待っていたのだった。

武道館で実のある自信を付けたNICO Touches the Wallsは、翌2015年、さらにジャンプアップする。武道館で自分たちを俯瞰することができた彼らは、2月にセルフカバー・アルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』を発表する。

ロックバンドがセルフカバーやアコースティック・アレンジをすることはよくある。しかし、そのほとんどが安易な“なんちゃって”アン・プラグドになってしまう。だが『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』は、まるでレベルが違っていた。
自分たちの曲を丁寧に分析・解体して、もう一度、きちんと再構築する。それを生楽器で演奏するから、さらにアンサンブルが緻密になる。試練と言ってもいいシビアさでメンバーはこのトライに挑み、見事に成功させたのである。どの曲も新しい命を吹き込まれ、“今のNICO Touches the Walls”の表情を与えられていた。

このアルバムの1曲目は新曲「口笛吹いて、こんにちは」で、セルフカバーとしては「手をたたけ」で始まり、「バイシクル」で終わる構成になっている。この曲順を見て、僕は不思議な気持ちになった。かつてマジックを起こした「手をたたけ」と「バイシクル」が勝負のアルバムの重要な位置を占めている。しかも「手をたたけ」は打楽器中心のにぎやかなアレンジがなされ、一方、「バイシクル」はアコギ1本の弾き語りという、2曲ともオリジナルとはまったく異なるタッチに仕上げられていた。だから僕はこのアルバムのライブを観たいと思った。今度はどんなマジックが体験できるのだろう。

ライブはアルバムの発売直後、ビルボードライブ東京で行なわれた。もちろん僕は駆けつけた。そして、またしても奇跡を目撃したのだった。

EP4A3820

メンバーの軽快な口笛で始まる「口笛吹いて、こんにちは」に続く「手をたたけ」で、古村と坂倉はなんとスネアとタムタムを叩いて、対馬と3人で野太いリズムを作る。そこにオーディエンスのハンドクラップが加わると、ビッグ・グルーヴが生まれる。光村はそのグルーヴに乗って、ワイルドに歌い上げる。♪去った僕の音楽よ 戻れ♪という歌詞が、またしても心に刺さってくる。が、それは以前とはまったく違うニュアンスだった。

F32A1467

F32A1360

F32A1521

F32A1775

武道館のリベンジを果たし、音楽を取り戻した4人の歓びが打楽器群に託されていた。単にリベンジを果たしただけではなく、再び苦難が襲ってきても大丈夫という強い信念が歌われていた。「手をたたけ」は“新しい歌”になっていた。

アルバムの曲順どおりに進んだライブも残り1曲となったところで、光村が「どうもありがとう。3人に拍手を!」と言ってメンバーを送り出す。残った光村は一人で「バイシクル」を弾き語った。♪スピードを上げるほど 強くなる向かい風♪というフレーズがNICO Touches the Wallsの歴史とシンクロし、♪寄り道だらけの旅でもMy Bicycle悪くはないさ♪と、今の彼らの心境を表わす。素晴らしい弾き語りだった。

EQ0A7544

メンバー一人一人が互いの音と気持ちを分かり合い、返事を返す。そこには長くバンドを続けていこうという決意と自信があった。だから「バイシクル」の弾き語りには、“純粋なバンド愛”が感じられた。この一見、矛盾したバンド・マジックが、ビルボードライブ東京で起こったのだった。

きっとこうしたライブで得た自信が、スピッツの「歩き出せ、クローバー」の堂々のカバーを生んだのだと僕は思う。次のマジックが、彼らのリスペクトする奥田民生とのツーマンライブで起こったら嬉しいなあと思う。


「奥田民生 vs NICO Touches the Walls」@豊洲PIT
奥田民生とNICO Touches the Wallsのツーマンイベント、開催決定!

平山雄一公式Web チケット販売特設ページ>>
https://www.yuichihirayama.jp/yowamushirock/

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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2016.09.02
【続☆NICO Touches the Wallsライブ・マジック】弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その4

2015年末に面白いアルバムが出た。20年前のスピッツの傑作アルバム『ハチミツ』を、オリジナルの曲順どおりに若いバンドがカバーするという画期的なトリビュート盤『JUST LIKE HONEY-『ハチミツ』20th Anniversary Tribute-』だった。そこでNICO Touches the Wallsは、3曲目の「歩き出せ、クローバー」を担当。ASIAN KUNG-FU GENERATIONや10-FEETなどのバンドと並んで優れたカバーを披露した。
コーラスワークやギターワークなど、よく練られたアレンジは群を抜いていた。何より、スピッツに対するリスペクトがそこここににじんでいて、聴きごたえがあった。この自信にあふれるカバーは、きっと“ライブの充実”から来ているのではないかと僕は思った。

2014年8月、NICO Touches the Wallsの2度目の武道館は大成功を収めた。それはある意味、2010年に初めて行なった武道館のリベンジでもあった。1度目はバンドとしては納得のいかないライブだったから、彼らは周到な準備をして臨み、オープニングから軽々とリベンジを果たした。

_MG_9519

マジックが起こったのは、中盤のアコースティック・アレンジをほどこした「バイシクル」だった。モノクロの大スクリーンにメンバーが映し出され、歌詞が♪全速力で闇をくぐって 光射すトンネルの向こうへ♪という歌詞に差しかかったとき、光村の歌の表現レベルが突然アップしたのだ。触発されて、ギターの古村大介も、ベースの坂倉心悟も、ドラムの対馬祥太郎も、これまで以上に歌心のある演奏に変わっていく。珍しく目を閉じて弾く坂倉。思い入れたっぷりにアコギを掻き鳴らす古村。対馬は全体を見渡しながら、しっかりリズムを刻み込む。その瞬間、バンドのスケールがみるみるアップして、まさに“武道館サイズ”になったのだった。

このライブについて、後にメンバーはこう語っている。

_Q5A3648

「『バイシクル』は歌の流れに沿ってギターを弾いているだけで、考える必要がないくらい自然に強弱が付きました。こういうイメージでやりたいと思っていた以上にできて、すごくよかったです」(古村)。

_U2A2915

「『手をたたけ』と、最新モードの『天地ガエシ』を続けてやったんですけど、この2曲を今の自分たちが新旧関係なしに最も美しい形でできたら、それこそ純粋なバンド愛なんじゃないかって思ってた。“今ならできる”って思ってたし、できたのが嬉しかったです」(対馬)。

_P5A8765

「武道館の準備は大変でしたけど、その分、ちょっとしたトラブルは平気になった。だから武道館のステージに上がったときにはもう“早く始めたいな”って気持ちで。それは自分の中ですごく珍しいことなんです。ステージに上がるのが楽しみって感覚は、本当にこの1年以内の話です」(坂倉)

_L8A3299

「アコースティックの『バイシクル』は賭けでしたね。だって直前のツアーでは大騒ぎのライブをやっている。でもここから先、俺たちがやりたいことを9000人が集まってる前で表現できないと本物じゃないなと思ってました。だから自分のリベンジは果たせたなって思えた。そうしたらもう、あとは楽しむだけ。自分もお客さんになって楽しんじゃいました」(光村)

_P5A8938a

対馬の“純粋なバンド愛”という言葉が、このリベンジ・ライブの成功のすべてを物語っている。同時に、このライブ以上のマジックが翌年に待っていたのだった。

武道館で実のある自信を付けたNICO Touches the Wallsは、翌2015年、さらにジャンプアップする。武道館で自分たちを俯瞰することができた彼らは、2月にセルフカバー・アルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』を発表する。

ロックバンドがセルフカバーやアコースティック・アレンジをすることはよくある。しかし、そのほとんどが安易な“なんちゃって”アン・プラグドになってしまう。だが『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』は、まるでレベルが違っていた。
自分たちの曲を丁寧に分析・解体して、もう一度、きちんと再構築する。それを生楽器で演奏するから、さらにアンサンブルが緻密になる。試練と言ってもいいシビアさでメンバーはこのトライに挑み、見事に成功させたのである。どの曲も新しい命を吹き込まれ、“今のNICO Touches the Walls”の表情を与えられていた。

このアルバムの1曲目は新曲「口笛吹いて、こんにちは」で、セルフカバーとしては「手をたたけ」で始まり、「バイシクル」で終わる構成になっている。この曲順を見て、僕は不思議な気持ちになった。かつてマジックを起こした「手をたたけ」と「バイシクル」が勝負のアルバムの重要な位置を占めている。しかも「手をたたけ」は打楽器中心のにぎやかなアレンジがなされ、一方、「バイシクル」はアコギ1本の弾き語りという、2曲ともオリジナルとはまったく異なるタッチに仕上げられていた。だから僕はこのアルバムのライブを観たいと思った。今度はどんなマジックが体験できるのだろう。

ライブはアルバムの発売直後、ビルボードライブ東京で行なわれた。もちろん僕は駆けつけた。そして、またしても奇跡を目撃したのだった。

EP4A3820

メンバーの軽快な口笛で始まる「口笛吹いて、こんにちは」に続く「手をたたけ」で、古村と坂倉はなんとスネアとタムタムを叩いて、対馬と3人で野太いリズムを作る。そこにオーディエンスのハンドクラップが加わると、ビッグ・グルーヴが生まれる。光村はそのグルーヴに乗って、ワイルドに歌い上げる。♪去った僕の音楽よ 戻れ♪という歌詞が、またしても心に刺さってくる。が、それは以前とはまったく違うニュアンスだった。

F32A1467

F32A1360

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武道館のリベンジを果たし、音楽を取り戻した4人の歓びが打楽器群に託されていた。単にリベンジを果たしただけではなく、再び苦難が襲ってきても大丈夫という強い信念が歌われていた。「手をたたけ」は“新しい歌”になっていた。

アルバムの曲順どおりに進んだライブも残り1曲となったところで、光村が「どうもありがとう。3人に拍手を!」と言ってメンバーを送り出す。残った光村は一人で「バイシクル」を弾き語った。♪スピードを上げるほど 強くなる向かい風♪というフレーズがNICO Touches the Wallsの歴史とシンクロし、♪寄り道だらけの旅でもMy Bicycle悪くはないさ♪と、今の彼らの心境を表わす。素晴らしい弾き語りだった。

EQ0A7544

メンバー一人一人が互いの音と気持ちを分かり合い、返事を返す。そこには長くバンドを続けていこうという決意と自信があった。だから「バイシクル」の弾き語りには、“純粋なバンド愛”が感じられた。この一見、矛盾したバンド・マジックが、ビルボードライブ東京で起こったのだった。

きっとこうしたライブで得た自信が、スピッツの「歩き出せ、クローバー」の堂々のカバーを生んだのだと僕は思う。次のマジックが、彼らのリスペクトする奥田民生とのツーマンライブで起こったら嬉しいなあと思う。


「奥田民生 vs NICO Touches the Walls」@豊洲PIT
奥田民生とNICO Touches the Wallsのツーマンイベント、開催決定!

平山雄一公式Web チケット販売特設ページ>>
https://www.yuichihirayama.jp/yowamushirock/

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店