HAIKU

2023.05.25
『アテはテンプラ カモカナ!! Vol.4』 加茂加奈・作&絵 弘文印刷・刊 

『アテはテンプラ カモカナ!! Vol.4』 加茂加奈・作&絵 弘文印刷・刊  
 昨年の『鴻』9月号で紹介した高知の松岡かまぼこ店店長カモカナさんの4コマ漫画『アテはテンプラ カモカナ!!』が、とんでもないことになっている。『鴻』では7月に出版された第1巻を取り上げたのだが、その後、第2巻が10月に、第3巻が12月に刊行され、高知有数の書店・金高堂では売上チャートの上位を第1~3巻が独占。さらには今年3月に第4巻がリリースされた。この超ハイスピードの刊行には驚くしかない。  
 ユニークな4コマは第1巻の発売直後から全国の地方紙で取り上げられて大きな反響を呼び、今年1月にはNHKの情報番組『あさイチ』で店頭のカモカナさんの笑顔と勇姿が生中継されたので、映像をご覧になった方もいるかもしれない。高知の人気者が全国区になった瞬間だった。
 この刊行ラッシュは、カモカナさんの才能と表現意欲が爆発した結果だろう。十代の頃、イラストやデザインの道に進む夢を抱いて上京した彼女は、家業のかまぼこ店を手伝うために専門学校を中退せざるを得なかった。その後、店長を務めながら店頭の商品紹介のポップ(小さな札)を手描きしていたところ、その面白さに気付いた出版人に勧められて『アテはテンプラ カモカナ!!』が世に出ることになった。彼女のエネルギーは、ずっと持ち続けた夢の実現によって爆発したのだった。
 そしてその爆発に、僕も巻き込まれることになった。『鴻』に書いたコラムを、そのまま第3巻の後書きとして収録したいとの打診が来たのだ。依頼主はカモカナさんに出版を勧めた出版人の方だった。その方は決断が早く、しかも押しが強い。早速、『鴻』誌編集長の谷口摩耶さんに許可をいただいて掲載を承諾したのだが、「ついでに表紙に一句、作って欲しい。できれば発売時期に合わせて、正月の俳句をお願いします」との追加注文があった。「え~?!」と思いながらもカモカナさんの表紙イラストが楽しかったので、僕は一句を提供した。
 すると第3巻が出て間もなく、例の出版人からまたしても無茶振りが。「好評なので第4巻ではカモカナさんの絵と、雄一さんの俳句のコラボを増やしたい。ついては発売時期に合わせて、春と夏の句を二十句お願いします。あと、表紙の句も作ってください」。
 あまりの展開の速さと押しの強さにしばし唖然とした。昨年7月に高知で俳句ワークショップを開催した際、松岡かまぼこ店に昼の弁当を買いに行った。直前に『アテはテンプラ カモカナ!! Vol.1』を読んで面白かったので、著者のカモカナさんにひと目お会いしたいと思ったからだった。つまりカモカナさんにお会いしたのは、その一度きり。依頼主の出版人の方に至っては、お会いしたこともない。なのに・・・である。
しかしこんな面白い企画に乗らない手はない。聞けば第4巻ではアパートのオーナーの「じょんたろうさん」など新キャラも登場して、これまで以上に面白くてパワフルとのこと。そんなカモカナさんのイラストと俳句を結びつけたら、楽しいページが出来るような気がしたので速攻引き受けた。

「かまぼこの中から玉子うららけし」(季語:うららか 春)
「『おいも様!』一年生の笑ひ声」(季語:一年生 春)
 まずは松岡かまぼこ店の商品を詠みこんでみることにした。この本は主に高知で販売されるので、読者のほとんどが松岡かまぼこの商品を知っている。「玉子大丸」は、太いかまぼこの中に茹で卵が丸ごと入っている逸品で、切ると断面に黄身と白身がドーンと出てきてビックリ。目出度い気分になる。「おいも様」は巨大なサツマイモの天麩羅で、おやつとして人気を博している。子供たちは「おいも様」という言葉が面白いのか、誰かが注文するたびに笑いが起こるのだった。

「『呑みゆう』とささやく夜の鯉のぼり」(季語:鯉のぼり 夏)
「立呑にゐる風鈴の鳴らぬ夜は」(季語:風鈴 夏)
 酒好き王国の高知らしく、カモカナさんの4コマにはしばしばお酒のシーンが登場する。「呑みゆう」は「呑んでいきなよ」という意味の土佐弁だ。そしてカモカナさんは超がつく暑がりで、しかも酒豪だということなので、「立呑屋のカモカナさん」を妄想してみた。

「逆光へ翼大きく春の鳶」(季語:春の鳶)
「真穴子に切取線のやうなもの」(季語:穴子 夏) 
 高知の風土も詠むことにした。竜馬の愛した桂浜の空には、鳶が悠然と舞っている。また高知では鰻と同じくらい穴子が愛されていて、どちらも極上の天然物が市内の市場に並んでいるのだった。

 これらの句に、カモカナさんがイラストを描いてくれた。絵柄には彼女のユーモアセンスがあふれ、そこに鮮やかな色彩が施されていて、予想以上に楽しいコラボレーションになった。不思議な縁に導かれた一冊になったと思う。
「あれはそう雲雀が君を探す声 雄一」(季語:雲雀 春)

                俳句結社誌『鴻』2022年5月号 
                 連載コラム【ON THE STREET】より加筆・転載

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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2023.05.25
『アテはテンプラ カモカナ!! Vol.4』 加茂加奈・作&絵 弘文印刷・刊 

『アテはテンプラ カモカナ!! Vol.4』 加茂加奈・作&絵 弘文印刷・刊  
 昨年の『鴻』9月号で紹介した高知の松岡かまぼこ店店長カモカナさんの4コマ漫画『アテはテンプラ カモカナ!!』が、とんでもないことになっている。『鴻』では7月に出版された第1巻を取り上げたのだが、その後、第2巻が10月に、第3巻が12月に刊行され、高知有数の書店・金高堂では売上チャートの上位を第1~3巻が独占。さらには今年3月に第4巻がリリースされた。この超ハイスピードの刊行には驚くしかない。  
 ユニークな4コマは第1巻の発売直後から全国の地方紙で取り上げられて大きな反響を呼び、今年1月にはNHKの情報番組『あさイチ』で店頭のカモカナさんの笑顔と勇姿が生中継されたので、映像をご覧になった方もいるかもしれない。高知の人気者が全国区になった瞬間だった。
 この刊行ラッシュは、カモカナさんの才能と表現意欲が爆発した結果だろう。十代の頃、イラストやデザインの道に進む夢を抱いて上京した彼女は、家業のかまぼこ店を手伝うために専門学校を中退せざるを得なかった。その後、店長を務めながら店頭の商品紹介のポップ(小さな札)を手描きしていたところ、その面白さに気付いた出版人に勧められて『アテはテンプラ カモカナ!!』が世に出ることになった。彼女のエネルギーは、ずっと持ち続けた夢の実現によって爆発したのだった。
 そしてその爆発に、僕も巻き込まれることになった。『鴻』に書いたコラムを、そのまま第3巻の後書きとして収録したいとの打診が来たのだ。依頼主はカモカナさんに出版を勧めた出版人の方だった。その方は決断が早く、しかも押しが強い。早速、『鴻』誌編集長の谷口摩耶さんに許可をいただいて掲載を承諾したのだが、「ついでに表紙に一句、作って欲しい。できれば発売時期に合わせて、正月の俳句をお願いします」との追加注文があった。「え~?!」と思いながらもカモカナさんの表紙イラストが楽しかったので、僕は一句を提供した。
 すると第3巻が出て間もなく、例の出版人からまたしても無茶振りが。「好評なので第4巻ではカモカナさんの絵と、雄一さんの俳句のコラボを増やしたい。ついては発売時期に合わせて、春と夏の句を二十句お願いします。あと、表紙の句も作ってください」。
 あまりの展開の速さと押しの強さにしばし唖然とした。昨年7月に高知で俳句ワークショップを開催した際、松岡かまぼこ店に昼の弁当を買いに行った。直前に『アテはテンプラ カモカナ!! Vol.1』を読んで面白かったので、著者のカモカナさんにひと目お会いしたいと思ったからだった。つまりカモカナさんにお会いしたのは、その一度きり。依頼主の出版人の方に至っては、お会いしたこともない。なのに・・・である。
しかしこんな面白い企画に乗らない手はない。聞けば第4巻ではアパートのオーナーの「じょんたろうさん」など新キャラも登場して、これまで以上に面白くてパワフルとのこと。そんなカモカナさんのイラストと俳句を結びつけたら、楽しいページが出来るような気がしたので速攻引き受けた。

「かまぼこの中から玉子うららけし」(季語:うららか 春)
「『おいも様!』一年生の笑ひ声」(季語:一年生 春)
 まずは松岡かまぼこ店の商品を詠みこんでみることにした。この本は主に高知で販売されるので、読者のほとんどが松岡かまぼこの商品を知っている。「玉子大丸」は、太いかまぼこの中に茹で卵が丸ごと入っている逸品で、切ると断面に黄身と白身がドーンと出てきてビックリ。目出度い気分になる。「おいも様」は巨大なサツマイモの天麩羅で、おやつとして人気を博している。子供たちは「おいも様」という言葉が面白いのか、誰かが注文するたびに笑いが起こるのだった。

「『呑みゆう』とささやく夜の鯉のぼり」(季語:鯉のぼり 夏)
「立呑にゐる風鈴の鳴らぬ夜は」(季語:風鈴 夏)
 酒好き王国の高知らしく、カモカナさんの4コマにはしばしばお酒のシーンが登場する。「呑みゆう」は「呑んでいきなよ」という意味の土佐弁だ。そしてカモカナさんは超がつく暑がりで、しかも酒豪だということなので、「立呑屋のカモカナさん」を妄想してみた。

「逆光へ翼大きく春の鳶」(季語:春の鳶)
「真穴子に切取線のやうなもの」(季語:穴子 夏) 
 高知の風土も詠むことにした。竜馬の愛した桂浜の空には、鳶が悠然と舞っている。また高知では鰻と同じくらい穴子が愛されていて、どちらも極上の天然物が市内の市場に並んでいるのだった。

 これらの句に、カモカナさんがイラストを描いてくれた。絵柄には彼女のユーモアセンスがあふれ、そこに鮮やかな色彩が施されていて、予想以上に楽しいコラボレーションになった。不思議な縁に導かれた一冊になったと思う。
「あれはそう雲雀が君を探す声 雄一」(季語:雲雀 春)

                俳句結社誌『鴻』2022年5月号 
                 連載コラム【ON THE STREET】より加筆・転載

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店