面白い俳句の本を作ったので、紹介したい。
タイトルは『八月や六日九日十五日』。広島の原爆忌、長崎の原爆忌、そして終戦日の日にちを並べただけの句だが、その含む意味の重さは計り知れない。日本人なら誰しもがこの三つの日付の見ただけで、いろいろな思いを喚起されるだろう。
だが、ただ日付を並べただけの一句だけに、誰でも作れてしまう。実際、この本の著者・小林良作氏は、ある俳句の大会に「八月の六日九日十五日」という句で応募したところ、審査の方から「この句はすでに発表されているので受け付けることができない」と連絡が来たので応募を取り消したのだった。
調べてみると「八月は六日九日十五日」という句があった。「や」「の」「は」という助詞の違いはあっても、ほとんど同じで、伝えたいことも完全に重なっている。小林氏は単純に「誰がいちばん先にこの句を作ったのだろう」という探究心に突き動かされて、“俳句探偵”と化し調査の旅に出るのだった。
ネットで調べ、新聞社に問い合わせ、次第に真実に近づいていく。大分にこの句が刻まれた句碑があると聞き、足を運ぶ。特攻隊基地の跡地を整備した公園にずらりと並ぶ72基の句碑の先頭に、この句が刻まれているのを発見する。そしてこの本の結末で、最初にこの句を世に発表したと思われる人物を特定するに至るのだった。
その人物は三つの日付すべてに関わりを持つ方で、ドラマティックな展開は、まさに「事実は小説より奇なり」。こんなに真に迫って、しかも温かい結末が待っているとは・・・・本当に有意義で幸せなドキュメントである。
小林氏は所属する俳句結社「鴻」の結社誌に今年の1月から5月に連載という形で俳句探偵レポートを発表。大評判となって、「鴻」の10周年事業として1冊にまとめることになった。「鴻」誌に僕も連載しているので、その縁もあって、僕はこの本の制作を手伝った。もちろん文章も寄せている。
この本で注目したいのは、俳句評論家の小川軽舟氏の「この句は作者が多いなと感心した」という言葉だ。単に誰かがパクったとかいう浅い解釈ではなく、「誰もが平和の祈りの代わりに、この句を作りたくなる気持ち」をくみ取った発言である点が素晴らしい。
ズラリと並ぶ句碑のカラー写真には迫力があり、デザイナー小原俊幸氏による装丁も美しい。終戦日に間に合うようにスタッフ全員で頑張って作ったので、是非手に取って欲しい一冊だ。
「一人来て特攻の地の麦の秋 小林良作」(季語:麦の秋 夏)
問い合わせは、「鴻」発行所出版局 FAX 047-366-5110。
住所と部数を書いて申し込み。値段は送料込900円です。
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